オフィスANIYAの行政書士ブログ

西洋音楽の「絶対性」と琉球音楽の「相対性」から読み解く人間関係

音楽文化が教えてくれた沖縄におけるビジネスの極意 ♪♫

 先日、部下と昼食をとっていた時のこと。何気ない会話から音楽の話になり、琉球音楽を嗜んでいる彼から「西洋音楽は絶対的だけど、日本、とりわけ沖縄の音楽は相対的なんですよ。」という話を耳にしました。
 ギターの調弦は、一般にE-A-D-G-B-E(ミ・ラ・レ・ソ・シ・ミ)で固定されますが、三線の調弦(ちんだみ)は、3本の弦(男絃・中絃・女絃)を相対的な音程パターン C-F-C(ド・ファ・ド)や B-E-B(シ・ミ・シ)に合わせるのだそうです。つまり、ギターは絶対的な(固定された)チューニングで弾くの対して、三線は歌う人(男性・女性)の声の高さや曲に合わせ相対的な音程で弾くのです。
 この音楽の違い、私たちが沖縄でビジネスを展開したり、人間関係を築いたりする上で、非常に重要な本質を突いていると気づきました。今回は、この「音感」の違いと、沖縄独特の「音階」の秘密をヒントに、沖縄でビジネスを成功に導くポイントを紐解いてみたいと思います。

[Gemini Notebookを使用した音声解説]

世界共通の基準を大切にする西洋音楽

 現在、世界中のオーケストラや演奏家が演奏前にチューニングを行う際の基準となるのが、「ラ(A4)」の音です。この音は、国際規格 ISO 16 によって A4=440Hz と定められています。国籍が異なる演奏家同士であっても、この基準に楽器を合わせれば、一つのオーケストラとして美しいハーモニーを奏でることができます。
 もちろん、古楽演奏などではA=415Hz、あるいは一部のオーケストラでは442Hzや443Hzを採用する例もあります。しかし、それらも「どの基準で演奏するか」を事前に共有し、全員がその基準に合わせるという考え方に変わりはありません。つまり、西洋音楽は、「まず共通の基準を決め、その基準に合わせて全体の調和を生み出す文化」と言えるでしょう。
 この考え方は、西洋社会のルールづくりにもよく似ています。契約を明確にする。責任の所在を明らかにする。ルールを守ることで公平性を保つ。組織の中でも、「何が正しいのか」という基準を共有することが、信頼関係の出発点になります。

日本は「空気」を読む文化

 一方、日本では古くから、「長い物には巻かれろ」という言葉があります。この言葉は、単に権力に従うという意味ではなく、周囲との調和を乱さない知恵として受け継がれてきました。会議でも、まず周囲の意見を聞き、全体の空気を読みながら発言する場面は少なくありません。正解を主張することよりも、「皆が納得すること」を大切にする文化と言えるでしょう。
 音楽で例えるなら、自分一人が正しい音を出すことよりも、周囲との響き合いを重視する姿勢に通じるものがあります。

沖縄には「人との関係」を最優先する文化がある

 沖縄の伝統楽器である三線(さんしん)には、固定された絶対的な基準音がありません。その場にいる歌い手の声の高さに合わせて、全体の基準音を上げ下げする「ちんだみ(調弦)」を行います。つまり、「他の音との関係性」によって音楽が成立する「相対的」な世界なのです。
 沖縄には、「いちゃりばちょーでー」という有名な言葉があります。「一度会えば皆兄弟」。初対面であっても、心を開いて相手を受け入れる沖縄らしい価値観を表しています。また、「てーげー」という言葉もあります。一般には「適当」と訳されることがありますが、本来は「ほどほど」「無理をしない」「相手を追い込みすぎない」という、おおらかな生き方を表す言葉です。
 沖縄では、物事を白黒はっきり決めることよりも、人間関係を長く続けることが優先される場面が少なくありません。もちろん、すべての人がそうというわけではありません。しかし、地域に根差したコミュニティでは、「信頼できる人かどうか」が、仕事を任せる際の大きな判断材料になることがあります。
 出会った瞬間に相手と音を合わせ、心地よい和音を作る「いちゃりばちょーでー」や「てーげー」の精神は、まさにこの相対的な関係構築能力の表れと言えます。

琉球音階が奏でる癒やし

 そしてもう一つ、沖縄の音楽には決定的な特徴があります。それは、沖縄特有の「琉球音階」が「ド・ミ・ファ・ソ・シ」の5音で構成されており、「レ」と「ラ」の音が意図的に抜けているということです。もちろん、沖縄音楽には複数の音階や地域ごとの歌唱法があり、すべての楽曲がこの形に当てはまるわけではありません。しかし、この五音音階は沖縄音楽を象徴する特徴の一つです。この音階では半音による緊張感が生まれにくく、旋律全体が柔らかく穏やかな印象になります。沖縄民謡を聴くと、どこか懐かしさや安心感を覚える人が多いのは、その響きが私たちの心を自然に包み込むからなのかもしれません。人と競い合うというより、人と寄り添う。そんな沖縄の価値観が、音楽にも表れているように感じます。
 西洋の7音階が「隙間なく均等に配置されたルール」だとすれば、琉球音階はあえて音を抜き、そこに「余白」を持たせています。音楽的にこの「隙間」があることで、沖縄音楽特有のゆったりとした心地よさや、心に響く強い哀愁(エモーション)が生まれるのです。
 これをビジネスや人間関係に置き換えると、非常に面白いことが見えてきます。

沖縄でビジネスをするなら知っておきたいこと

 私は行政書士として、多くの事業者の皆様と接する機会があります。その中で感じるのは、沖縄では契約書や価格だけでは測れない「信頼」が大きな意味を持つということです。もちろん、契約や法令を軽視してよいという意味ではありません。むしろ、それらは事業を続けるための土台です。しかし、その土台の上に築かれるのは、人と人との信頼関係です。
 県外企業が沖縄へ進出して苦労する理由の一つとして、「理屈は正しいのに、人との関係づくりが十分でなかった」というケースが挙げられることがあります。反対に、地域とのつながりを大切にし、相手の立場を尊重しながら時間をかけて信頼を築いていく企業は、長く地域に根付いている印象があります。
 沖縄でビジネスを成功させるためには、契約書だけでなく、「また会いたい」「また一緒に仕事をしたい」と思ってもらえる関係づくりも重要なのです。

まずは「ちんだみ(調弦)」から始める

 商談やミーティングの際、いきなり本題(数字や契約)に入るのではなく、まずは雑談や食事を通じて相手と「音を合わせる」時間をたっぷりとります。一度美しい和音が響き合い、信頼関係のネットワークに入れれば、ビジネスは驚くほどスムーズに進みます。

てーげー(良い加減)という柔軟性

 絶対的な正しさやルールで相手を追い詰めるのではなく、状況に合わせて柔軟に許容し合います。時計の針(絶対的基準)よりも、目の前の人との関係性(相対的基準)を優先するからこそ、「ウチナータイム」も生まれます。

ゆいまーる(相互扶助)のネットワーク

 個々が独立して存在するのではなく、「自分が困った時は助けてもらい、相手が困っている時は助ける」という、他者との関係性の中で自分の役割が決まるネットワーク社会です。

「契約」と「関係性」のズレ

 絶対音感のビジネスでは「まずは契約書(楽譜)ありき」ですが、沖縄では「まずは人間関係の調和(和音)を作ること」が優先されます。ここを飛ばして契約やロジックばかりを押し付けると、不信感を持たれてしまいます。

「絶対領域」と「相対領域」を分ける

 コンプライアンスや最終納期など「絶対に守るべき基準(絶対音)」は明確に示しつつ、そこに至るプロセスや日々のタスクの進め方は、現場の裁量や助け合い(相対音)に委ねる「余白」を作ります。西洋音楽のように統制のとれたオーケストラも素晴らしいですが、沖縄のビジネスは、その場の空気と互いの呼吸を感じ取りながら柔軟に音楽を紡いでいく「セッション」のようなものです。
 違いを楽しみ、相手の音に耳を傾けること。それが、沖縄で美しいビジネスの和音を響かせる最大の秘訣かもしれません。

👉 【コラム】時報の音は、楽器のチューニングと同じだった!?
「ピッ、ピッ、ピッ、ポーン」。
 ラジオやテレビの時報の音。誰もが一度は耳にしたことがあるこのメロディ(?)ですが、実はこの音の高さには、ちょっとした音楽の秘密が隠されているのをご存知でしょうか。
 時報の音をよーく聞いてみてください。最初の3回の「ピッ、ピッ、ピッ」という予報音と、最後の「ポーン」という正報音。実はこれ、どちらも音楽の「ラ(A)」の音なんです。具体的には、以下のような周波数(音の高さ)に設定されています。
・予報音(ピッ):440Hz(1秒間に440回振動する音)
・正報音(ポーン):880Hz(1秒間に880回振動する音)
 周波数が2倍になると、人間の耳には「1オクターブ高い音」として聞こえます。つまり、時報は真ん中の「ラ(A4)」から1オクターブ高い「ラ(A5)」へとジャンプして、時刻をお知らせしているのです。

結びに

 西洋音楽には、ISO 16という世界共通の基準があります。その基準があるからこそ、世界中の演奏家が一つの音楽を創り上げることができます。一方、沖縄音楽には、人と人との呼吸を大切にしながら、その場で調和を生み出す魅力があります。どちらが優れているという話ではありません。共通の基準があるから組織は機能し、人とのつながりがあるから組織は成長します。
 企業経営も同じです。法令やルールという「絶対的な基準」をしっかり守ること。そして、「いちゃりばちょーでー」の心で、人との信頼を育むこと。この二つがそろったとき、企業は地域に根付き、人は安心して共に働くことができるのではないでしょうか。
 西洋音楽が教えてくれる「基準の大切さ」と、沖縄音楽が教えてくれる「調和の大切さ」。その両方を大切にすることが、これからの時代の人間関係や経営に求められる姿勢なのかもしれません。

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