【連載】ロバート議事規則 第2回 基礎編 / 会議の種類・成立要件
前回は、総会における「監査報告に挙手で賛成を求める」というよくある光景をきっかけに、日本の法規制の考え方と、グローバル・スタンダードな会議ルールである「ロバート議事規則」の違いについて解説しました。
今回は基礎編として、そもそもこの「ロバート議事規則」とは何なのか、そして会議を正しく成立させるための根本的な考え方と「会議の種類」についてお話ししたいと思います。

「最悪の会議」から生まれた世界標準ルール
「ロバート議事規則(Robert’s Rules of Order)」という名前を聞くと、なんだかとてもお堅い法律か、歴史的な大政治家が作ったもののように感じるかもしれません。しかし、この規則を作ったのは、19世紀のアメリカに実在したヘンリー・M・ロバートという陸軍の工兵将校(のちの准将)です。世間や多くの文献では、敬意を込めて「ロバート将軍」と呼ばれています。
ヘンリー・マーティン・ロバート(1837~1923)は、合衆国陸軍の技術系士官でしたが、どの赴任先においても、軍務に時間的余裕があれば、教会組織や、市民・教育活動に積極的に取り組んでいました。ロバートが議事法に興味をもち始めたのは、熱帯病の再発のために厳しい軍務を緩和され、マサチューセッツ州のニューベッドフォードへ移されたあとの、1863年のことでした。
何の予告もなしに、ロバートは、ある会合の議長をするように要請されたのですが、議事の進め方を知りませんでした。しかし、この要請を拒否するのは最悪のことであると彼は感じていました。「私は、最大限に困惑した」と、後日、ロバートは次のように書き記しています。「私は、会合が節度を保つであろうという摂理を信じて、この要請に応ずることにした。しかし、それと同時に、次のような決心もした。つまり、私は議事法について何事かを知るまでは二度と会合に出席しないと…。」
1867年にロバートは少佐に昇任し、サンフランシスコへ赴任しました。彼は、妻とともに所属する諸団体で仕事をするうちに、議事法の内容に関する考え方が一致しない限り、諸団体は効率よく機能しないであろうと思ったようです。そして、諸団体に適合するであろうような議事規則集を作ることを決心しました。
ロバートは、1874年になってやっと著述にとりかかる時間ができました。そして1876年2月19日、シカゴのS・C・グリッグス社から「ロバート議事規則」の初版が発行されました。
これが、現在でも青年会議所(JC)をはじめとする世界中の民間団体や各種組織で「会議の標準」として採用されている「ロバート議事規則」の始まりです。この規則は、「会議がまとまらない!」という現場の切実な悩みから生まれた、極めて実用的なツールなのです。
会議が守るべき「4つの権利」
法がなく、すべての人間がそれぞれの正しいと考えるところに従って行動する場合には、真の自由は存在しない。 ─ ヘンリー・M・ロバート─
ロバート議事規則の根底には、民主主義に基づく強力な哲学があります。それは、会議とは単に「多数決で物事を決める場」ではなく、参加するすべての人の権利をバランスよく守るための場である、という考え方です。具体的には、会議は以下の「4つの権利」を保障しなければならないとされています。
- 多数派が意思決定する権利: 最終的に物事を決定し、組織を前進させる権利です。
- 少数派(特に3分の1を超える強力な少数派)の権利: 少数派であっても、採決の前に自分の意見や反対理由を十分に主張し、聞いてもらう権利です。
- 構成員個人の権利: 参加者一人ひとりが、平等に情報を得て、質問し、投票する権利です。
- 欠席者の権利: 「その日の会議を欠席した人」であっても、事前の案内(招集通知)にない事項を勝手に決められたりしない権利です。
どのような団体でも、全構成員の意見を適正に考慮し、多種多様な問題について、最小限の時間内に、その団体の意思を形成するためには、議事法を適用することが、これまでに考案された最善の方策なのです。
目的によって異なる「会議の種類」
上記の権利を守り、有意義な時間にするためには、会議はその目的に合った開き方が求められます。会議の種類は、概ね次の3つに大別されます(複数が組み合わさって形成されることもあります)。
- 問題解決型会議: 集団全体の名において、とるべき行動方針を決めるための会議です。
- 情報交換型会議: 必ずしも結論を求めることをせず、情報の提供や意見の交換を主目的とします。
- 知識吸収型会議: パネルディスカッションやシンポジウムに代表される形式です。講演会とは違い、自分の意見を述べたり質問を投げかけたりして疑問を解いていきます。
このうち、「ロバート議事規則」が厳格に適用されるのは「問題解決型会議(審議のための会議)」です。この型の会議は、次のような重要な特徴を備えています。
【問題解決型会議の特徴】
- 集団全体の名においてとるべき行動方針を決めるための会合である。
- 通常12人以上で構成され、会合の手続きについて一定の形式を必要とする。
- 構成員は、自己の判断にしたがって自由に行動できる。
- 各構成員の意見は、会議の表決に際し同等の重さをもつ。
- 集合体の表決に賛成しなくても、集合体から脱退することにはならない。
- 欠席構成員がある場合でも、出席構成員は構成員全体のために行動する。
知っているようで知らない「定足数」の本当の意味
問題解決型会議の特徴である「出席構成員が、構成員全体のために行動する」という点。これこそが、会議を成立させるための「定足数」に直結します。定足数とは、「会議が法的に成立し、その場での決定が組織全体の決定として認められるために必要な、最小限の出席者数」のことです。
なぜ定足数が必要なのでしょうか? 例えば、100人の会員がいる団体で、たまたま集まった「3人」だけで多数決(2対1)を行い、組織の重要事項を決めてしまったらどうなるでしょう。残りの97人(欠席者)からすれば、「そんな決定は無効だ!」となりますよね。
定足数は、「今日集まった人数は、組織全体を代表して意思決定をするのにふさわしい人数である」ということを法的に担保するためのバリアです。会議の途中で人が帰り、定足数を割ってしまった場合、その瞬間からその会議はただの「懇談会」となり、いかなる決議もできなくなります。
「とりあえず集まった人で決めよう」というルーズな運営は、後々「あの決議は無効だ」と法的トラブルに発展する最大のリスク要因となります。定足数が要求されるのは、ごく少数の構成員が会議体の名において不当な行為を防止するためなのです。
日本国憲法第56条には、次のように規定されています。
第56条 両議院は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
なお、本会議の定足数は、総議員の3分の1ですが、委員会の定足数は、国会法第49条により、委員の過半数となっています。
国会法第49条 委員会は、その委員の半数以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
すべての団体において、定足数として等しく適切であるような構成員の数または比率は存在しません。定足数は、極めて悪天候の日のような例外的な悪条件の場合を除いて、すべての会合に間違いなく出席すると無理なく考えられる、できるだけ多数の構成員数にすべきです。
定足数は、それぞれの団体において規定すべきですが、この種の規定がない場合、構成員の総数が正確に確認しうる団体や会議については、全構成員の過半数が定足数となります。
しかし、PTAや同窓会のように、多くの団体において、定足数を構成員の過半数とするのは多すぎます。大部分のそのような組織体においては、会合に構成員の過半数が出席することは、ほとんど望めないからです。
なお、大衆集会、または、組織体の定例会合や正規に招集された会合についても、規約が定足数を規定しておらず、かつ、構成員の総数が不明確な場合には、出席者数をもって定足数とします。
【参考文献】
・ロバート議事規則研究所発行 安藤仁介訳 「ロバート議事規則」
・萌書房発行 ドリス・P・ジマーマン 著 立木茂雄 監訳 「民主主義の文法」
─ 市民社会組織のためのロバート議事規則入門 ─
・(社)日本青年会議所発行 「BIBLE OF JAYCEE」
ルールは参加者を縛るものではなく、守るもの
「会議のルール」と聞くと、発言を制限されたり、手続きが面倒になったりする「参加者を縛るもの」というネガティブなイメージを持つ方も少なくありません。しかし本来のルールは、参加者全員の権利を守り、無用な感情的対立を防ぎ、スムーズに結論へと導くための「道しるべ」なのです。
次回は、このルールの実践編として、「議題」と「議案(動議)」の正しい取り扱い方や、会議を劇的に短縮する処理ステップについて解説します。会議の場で起きる裏話やリアルなエピソードも交えてお話ししますので、ぜひお付き合いください。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
次回予告
第3回は「実践編①:発言の種類と効果的な質問」をお送りします。お楽しみに!
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