【中小企業マネジメント解説シリーズ】第1回
今回から「中小企業マネジメント解説シリーズ」をスタートします。
本シリーズでは、中小企業が長く存続し、安心して事業を続けていくための経営管理をテーマとして解説していきます。その第1回として、まずは「健全経営」とは何かを定義づけるところから始めます。

健全経営を目指しましょう
「健全経営」は、ビジネスマンであれば誰もが一度は耳にする言葉でしょう。しかし、「健全経営とは具体的にどのような状態を指すのか」と問われると、明確に説明できる方は意外と多くありません。
- 売上が伸びていれば健全なのでしょうか。
- 借入が少なければ健全なのでしょうか。
- トラブルが起きていなければ健全なのでしょうか。
「健全な会社にしたい」 経営者であれば誰もがそう願うはずです。しかし、漠然と「良い会社」を目指しても、具体的な目標がなければ到達できません。
「健全」を構成する3つのキーワード
「健全」という言葉には、堅実、手堅い、危なげない、健康、強い、安全、安定など、多くの意味が含まれています。経営において、これらはどれも欠かせない要素です。
本シリーズでは、これらの中から「堅実」「強い」「健康」の3つのキーワードを取り上げ、これらがバランスよく整っている状態を「健全経営」として説明します。これらを企業の「財務」「事業」「組織」という3つの側面に当てはめると、目指すべき姿がより鮮明になります。
1. 財務面から見た「健全」=「堅実」
まず一つ目は、会社を存続させるための土台となるお金の面です。 ここでの健全さとは、一発逆転の博打を打つことではなく、「堅実」であることです。
- 資金繰りの安定: 支払いに追われることなく、手元資金に余裕がある。
- 自己資本の充実: 他人資本(借金)に過度に依存せず、自力で立つ力がある。
- 危なげない管理: どんぶり勘定ではなく、予算に基づいた計数管理ができている。
どんなに売上があっても、資金が回らなければ会社は止まります。「堅実な財務」こそが、企業の安心と安全を担保します。
2. 事業面(営業・技術)から見た「健全」=「強い」
二つ目は、本業のクオリティ、つまり商品やサービスの質と、それを売る力です。 ここでの健全さとは、市場における「強さ」です。
- 選ばれる品質: 顧客が満足し、リピートしたくなる技術やサービス力がある。
- 稼ぐ力: 競合他社に負けない独自の強み(付加価値)を持っている。
- 営業力: 良いものを、必要としている人に適正価格で届ける力がある。
財務が「守り」なら、事業力は「攻め」です。環境変化の激しい現代において、変化に対応し、逞しく利益を生み出し続ける「強い事業」が必要です。
3. 組織・ガバナンス面から見た「健全」=「健康」
三つ目は、組織を動かす「人」と「仕組み」です。 個人事業主はもちろん、会社も法人という言葉のとおり人と同じ生き物です。ここでの健全さとは、文字通り「健康」であることです。
- 風通しの良さ: 悪い情報もすぐに報告され、コミュニケーションが滞らない。
- コンプライアンス: 社会のルールを守り、後ろ指を指されない誠実さがある。
- 社員の活力: 社員が心身ともに元気で、意欲的に働ける環境がある。
どんなに強い事業を持っていても、組織が不健康(不正や過重労働、人間関係の不和)であれば、会社は内側から腐敗し、長続きしません。
「健全経営」の再定義と実現のために
以上のことから、本シリーズにおける「健全経営」を次のように定義づけます。
「健全経営」とは、
財務が「堅実」で安全性が高く、
事業が「強く」競争力があり、
組織が「健康」で持続可能な状態。
この3つの要素は、どれか一つ欠けても成り立ちません。 売上(強さ)があっても、資金管理(堅実さ)がズサンなら黒字倒産します。財務がピカピカでも、組織が不健康なら人は離れ、やがて衰退します。
では、この3つを同時に満たす理想的な状態はどうすれば作れるのでしょうか? 偶然や運任せでは達成できません。そこに必要なのが、未来への地図となる「経営計画」です。
次回以降は、この「健全経営」という目的地にたどり着くための具体的なルートマップ(経営計画)の作り方を解説していきます。
「健全経営」を測るためのKPI(指標)
前述した3つの定義は、言葉だけでは漠然としてしまうかもしれません。そこで、自社が現在どれくらい「健全」なのかを客観的に測るための「ものさし(KPI)」をいくつか例示します。
1. 財務の「堅実(手堅さ)」を測るKPI
会社がどれだけ倒産しにくいか、安全性を測る指標です。
- 自己資本比率
- 目安:30%以上(理想は50%以上)
- 総資産のうち、返済不要な自分たちのお金がどれくらいあるかを示します。この数値が高いほど、銀行等の外部環境に左右されない「堅実」な経営と言えます。
- 手元流動性比率(現預金月商倍率)
- 目安:月商の2〜3ヶ月分以上
- 「売上がゼロでも何ヶ月生き残れるか」を示す指標です。不測の事態(コロナ禍や災害など)が起きても、この手堅さがあれば会社と社員を守り抜くことができます。
2. 事業の「強さ」を測るKPI
商品・サービスの競争力や、効率よく稼ぐ力を測る指標です。
- 営業利益率
- 目安:5%〜10%以上(業種によるが黒字は必須)
- 本業でどれだけ稼げているかを表します。売上規模が大きくても利益率が低ければ「脆い」経営です。高い利益率は、他社にはない付加価値(=強さ)がある証拠です。
- 一人当たり粗利益(労働生産性)
- 目安:業種平均を上回ること(例:建設業なら1,000万円/年〜など)
- 社員一人がどれだけの価値を生み出しているか。この数値が高いことは、技術力が高い、あるいは営業力が強いことの証明であり、社員への給与還元の原資となります。
3. 組織の「健康」を測るKPI
組織が内部から疲弊していないか、活性化しているかを測る指標です。
- 離職率
- 目安:業界平均以下(急激な増加がないこと)
- 「健康」な組織からは人は去りません。離職率が高い、あるいは特定の部署だけ人が辞めていく場合、そこには数字には表れない組織の病巣(人間関係、ハラスメント、過重労働)が潜んでいます。
- 有給休暇取得率・時間外労働時間
- 目安:有休取得率50%以上、残業の適正化
- 法令順守(コンプライアンス)の基本であり、社員の心身の健康状態を測るバロメーターです。これらが守られていることは、組織としての自浄作用が働いている(=健康である)証と言えます。
行政書士コラム
建物の基礎がグラグラだと、どんなに立派な上物を建てても崩れてしまいますよね。経営も同じです。「健全経営」は英語で “Sound Management” と訳されます。この “Sound” は「音」という意味ではなく、語源をたどると「健康な」「傷のない」という意味に行き着きます。
- Sound body: 健康な体
- Sound foundation: 強固な基礎
- Sound management: 健全な経営
私たち行政書士がチェックする「財務諸表」や「定款」、「議事録」は、いわば会社の「基礎配筋」や「コンクリート強度」をチェックするようなもの。 会社が安心して大きな取引(上物)を行えるよう、私たちと一緒に「基礎(Management)」を固めていきましょう。
【中小企業マネジメント解説シリーズ】今後のラインナップ
本シリーズは、以下の全10回で構成します。経営計画書をこれから作るためのガイドブックとしてお読みください。
第1回 「健全経営」とは
第2回 経営管理の基礎「PDCAサイクル」
第3回 「夢、ビジョン、目的、目標」
第4回 ビジョンに基づいた経営理念の策定
第5回 目標設定のための現状分析の手法
第6回 リスクマネジメント
第7回 経営戦略の立て方
第8回 組織編成
第9回 資金計画と年間予定表
第10回 「経営計画」まとめ
次回は、経営を継続的に改善していくためのエンジンとなる「経営管理の基礎 PDCAサイクル」について解説します。 どうぞお楽しみに。
[PR]健全経営のための経営計画策定を行政書士に相談するメリット
健全経営のための経営計画は、数字だけでなく、事業内容・組織体制・法令遵守を含めてバランスよく整理することが重要です。行政書士オフィスANIYAは、許認可や制度に精通した専門家として、法令や実務を踏まえた現実的な経営計画の策定を支援できます。
また、経営者の考えや想いを文書に「見える化」することで、計画が日々の判断基準となり、継続的な経営改善につながります。策定した経営計画は、融資や補助金、将来の許認可手続きにも活用可能です。
行政書士オフィスANIYAは、健全経営を目指す中小企業にとって、経営者に寄り添いながら長期的に伴走できる身近な相談相手です。


