先日のキャンプでは焚き火でご飯を炊き、美味しくカレーライスをいただきました。やはり、焚き火で炊いたご飯はひと味違います。ふっくらと炊き上がったご飯を頬ばりながら、ゆらゆらと燃える焚き火を見ていると不思議と心が落ち着き、自然と「火」という存在に見入ってしまいました。
そのときふと、学生時代に受けた「ロウソクの科学」の授業を思い出したのです。「ロウソクの炎は息を吹きかけると消えるのに、線香の火は逆に赤々と燃えるのはなぜか。」という先生からの問いかけ。文系の学生も多く受講していた教養学部の授業は、「そもそも線香の火に息を吹きかけるのはマナー違反だから」というユニークな回答があり、物理学を専攻していた私は、ほくそ笑んだものです。

炎と火種のちがい
ロウソクの炎は、ろうが溶けて気化し、その蒸気が酸素と混ざって燃えることで輝いています。つまり「気体の燃焼」です。息を吹きかけると酸素は増えるものの、同時に炎を支えていた熱と蒸気を吹き飛ばしてしまうため、火はあっけなく消えてしまいます。
一方、線香の火は「炭化した固体」が酸化して燃える、いわば「表面燃焼」。息を吹きかけると酸素が供給され、燃焼反応が一気に活発になるため、赤く輝きを増すのです。同じ“火”でも、燃えているものの状態と、燃焼の仕組みがまったく異なるわけです。
焚き火に置き換えると見えてくるもの
キャンプの焚き火も、この二つの燃焼形態が交互に起こっています。最初に薪の表面が高温で炭化し、やがて発生した可燃性ガスが炎となって立ち上がる。そして炎が収まったあとは、炭のような「火種」だけが赤く残り、静かに燃え続けます。
ここで大切なのは、焚き火は“空気の流れ”をコントロールする科学実験そのものだということ。酸素が足りなければ煙が多くなり、酸素が多すぎれば一気に燃え尽きてしまう。このバランスを感覚ではなく理屈で理解しておくと、キャンプが格段に快適になります。
息を吹きかけるタイミングのコツ
焚き火をしていて火が弱まったとき、つい息を吹きかけてしまう人も多いでしょう。しかし、この行為にも科学的なコツがあります。つまり、焚き火が“今どの段階なのか”を見極めて空気を送ることが、効率よく火を保つ秘訣なのです。
- 炎がある段階では吹かないこと。
→ 炎は気体燃焼なので、吹くと炎が吹き飛び、消えやすい。 - 炭のような火種だけになった段階で吹くこと。
→ 表面燃焼なので、酸素を送り込むと一気に高温になる。 - うちわで扇ぐのではなく火吹き棒で吹くこと。
→ 灰が舞い上がりにくく、煙を吸い込むリスクを減らし火種にピンポイントで空気を送り込むことができます。
科学の視点を持つと、焚き火はもっと楽しくなる
火の扱いは、昔から感覚で覚えるものでした。しかし、そこに科学的な視点を加えるだけで、理解と応用の幅がぐんと広がります。
たとえば薪の組み方。空気の流れを考えずに薪を積むと、下の薪に酸素が届かず煙ばかり。逆に、空気が通るように井桁やティピー型に組めば、自然な上昇気流が生まれ、炎が安定します。
また、湿った薪を使うときは、可燃性ガスが発生しにくいため、まず乾いた薪で十分に熱を作る——。これも理屈を知っていれば迷いません。
火を理解することは、「効率を理解する」こと
キャンプだけでなく、私たちの日常や仕事にも通じます。感覚や経験に頼るだけでなく、「なぜそうなるのか」を考える。その姿勢が、効率的で無駄のない行動につながります。
ロウソクと線香の違いを知ることは、ただの雑学ではなく、物事を科学的に観察する力を養う小さなレッスンです。そしてその視点があれば、焚き火の炎のゆらめきも、より深く味わえるようになります。
おわりに
息を吹きかけて火が消えるのか、燃え上がるのか。その違いの中に、自然の法則と人の知恵が隠れています。次に焚き火を囲むときは、少し科学の目で火を見つめてみてください。炎の一つひとつが、理屈と美しさを同時に教えてくれるはずです。


